松の木々の間に差し込む柔らかな光と、足元に広がる苔や土の感触。ストックホルムの森の墓地(Skogskyrkogården)では、時間がゆっくりと流れています。
あなたが都会の喧騒から離れて自分自身と対話したくなったら、ストックホルム郊外に隠された静謐な場所を訪れてみてください。そこは単なる墓地ではありません。
建築家たちが描いたのは、死と自然、そして人間の魂が静かに共存する空間です。
駅の目の前は森
森の墓地(Skogskyrkogården)は、ストックホルム中心部のT-Centralen駅から地下鉄でわずか15分の場所にあります。
地下鉄の駅を出るとすぐに、森の墓地を囲む石壁が見えてきます。この壁は建築家シーグルド・リエヴェレンツ(Sigurd Lewerentz)によって設計されました。
スウェーデン国内最長の石壁の 1 つと言われている壁は、全体の長さが 4,228 メートルもあります。
森の墓地のかんたんな説明
ストックホルムの森の墓地は、スウェーデンの首都ストックホルムにあるユネスコ世界遺産です。
建築家Gunnar Asplund(グンナール・アスプルンド)とシーグルド・リエヴェレンツ(Sigurd Lewerentz)によって設計され、1915 年から 1940 年にかけて造られました。
彼らの使命は、訪れた人たちに生きることや死ぬこと、希望や悲しみ、光と影、そして自然と建物のすべてを感じてもらうような場所を作ることでした。
十字架 : Granitkorset
森の墓地の入り口を抜けて進むと、大きな十字架が出迎えてくれます。
大きな花崗岩(かこうがん)で出来た十字架は、グンナール・アスプルンドによってデザインされ、1939 年に完成しました。
十字架はキリスト教の死後の世界の象徴ですが、ここでは埋葬地の象徴としても解釈されています。つまり信者であるかどうかは関係なく、森の墓地はすべての人を受け入れてくれるのです。
温かくて大きな存在を感じる十字架。
自然に対して畏敬の念を抱くことはよくありますが、人間が作った建造物に畏敬の念を抱いたのは珍しい体験でした。
森の火葬場 : Skogskrematoriet
森の火葬場は3つの礼拝堂とホールを備えています。公式サイトによると、老朽化によりこの火葬場は現在使用されていないそうです。
その代わりに現在は、2014年に落成したレンガ造りの新しい火葬場が使われています。
天井の模様フェチとしては、やはり見上げてしまいました。どことなく和風な感じで嬉しい。
丘の上の瞑想の森
大きな十字架の前には丘があり、丘の上は瞑想の森です。私は今、天国に来てしまったのかな?と錯覚する様な神々しい光景が広がっていました。
森の墓地
森の中を歩いていると、あちこちに墓石が見え隠れしているのがわかります。芝生の合間から墓石がニョキっと顔を出し、完全に自然に溶け込んでいるのです。
人間はもともと自然の一部だったのだ、と実感する光景。
森の墓地を歩いていると聞こえてくるのは、砂利を踏み締める自分の足音、小鳥のさえずり、風の音。あとは静寂の世界です。
礼拝堂
森の中を進むと小さな礼拝堂(Skogskapellet)に出逢います。小さい木造の礼拝堂は1920 年に落成しました。
設計者は建築家のグンナール・アスプルンド。アスプルンドは、ストックホルム市立図書館を設計したことでも知られています。
森の墓地の南方には、復活の礼拝堂(Uppståndelsekapellet)があります。
グレタ・ガルボのお墓
森の中を進むと、松林の中に芝生で囲まれた広い空間が出現します。
往年のハリウッド女優、グレタ・ガルボ(Greta Garbo)のお墓です。
ストックホルム出身のグレタ・ガルボは、ハリウッドで成功しアメリカで暮らしましたが、没後はスウェーデンの森の墓地で埋葬されています。
ビジターセンター
グレタ・ガルボのお墓を南方面へ進むとビジターセンター(Skogskyrkogårdens besökscentrum)があるので、ここで休憩されると良いでしょう。
森の墓地は広大で、歩いて回ると結構疲れるのです。
ビジターセンターの中は、軽食やケーキ、ちょっとしたお土産やポストカードもありますよ。
人生の様な道
森の墓地は、お墓と自然の調和が素晴らしかったのですが、道も同じくらい印象に残りました。
下の写真をご覧ください。人生を表しているみたいではありませんか?
辛いことも楽しいこともあるけれど、歩いていればいつか辿り着ける場所がある。
疲れたら休んで、時には全力で走って、たまには鼻歌混じりで、1人で歩いて、時には誰かと一緒に、ずっと続く道、それが人生。
ポエマー気取りですみません。でも、森の墓地を歩いていると普段考えない様な「人生とは?」ということをつい考えてしまうのです。
影の功労者
ところで、森の墓地の芝生はとても綺麗に手入れされいてウットリしました。管理が大変そう、と現実的なことを考えながら歩いていたら、ウィーンウィーン&ガタガタガタ、と賑やかなマシーンが横切っていきました。
そう、自動芝刈り機です。あちこちで目にしたので、帰る頃には別れ難くなりました。
森の墓地のインフォメーション
森の墓地は、お葬式やお墓参りに来る方にとって神聖な場所です。故人と静かに対話したい方もいるでしょう。
訪問の際は、故人、遺族、関係者への配慮とリスペクトを忘れずに😊
住所 : Sockenvägen, Stockholm
地図 : Googleマップで見る
HP : https://skogskyrkogarden.stockholm/
※正面玄関のゲートは24時間オープン
※ビジター センター内およびその周辺は、パスワードなしで無料Wi-Fiに接続できます。
ビジターセンターの営業時間(2024年)
夏の間はビジターセンターがオープンしています。
5/1~9/30:毎日11.00-16.00
10月 : 土日 11.00-16.00
森の墓地の 5 つの礼拝堂は、一般公開されていません。見学希望の場合は、パブリック ツアーに参加するか、プライベート ツアーを予約しましょう。
礼拝堂ではなく、お墓や十字架、瞑想の森を見学するのは無料です。
さいごに
森の墓地は静けさに包まれていて(芝刈り機以外は!)、自分を見つめたり、死生観を振り返る場として最適です。
私が今回感じたのは、「死とはその瞬間が来るまで生きていること」です。いつか必ず死ぬのだから、その瞬間までちゃんと生きていよう。
森の墓地を歩きながら死について考えていたはずなのに、結局は生きるとは?という命題にたどり着いてしまったのでした。
この場所へ来るたびに違う感想を持ちますから、折に触れて何度でも訪れたい場所です。
森の墓地を「何もないただの墓地」と思うか、「生死を見つめる場所」と思うのか、あなたはどんな感想を持つのでしょう。ぜひこの場所を訪れて、ご自身の目で確かめてみてください。
年に一回ある森の墓地での諸聖人の日の記事も併せてご覧ください
コメント
しろくまさん、こんにちは。いつも素敵な記事をありがとうございます。😊
日本の墓地とは全くイメージが違いますね。私くらいの年齢になると、友達とお墓の話もよくします。
「夫の家のお墓に入りたくない」とか、「一人っ子同士だから墓じまいをしなくては」とかいろいろ大変です。🤣
「死とはその瞬間が来るまで生きていること」いつその瞬間が来ても後悔の無いような生き方がしたいと思います。
また一つ訪れたい場所が場所が増えました。ありがとうございます、楽しみです。
お褒めの言葉をありがとうございます。
記事には書いていませんが、瞑想の森の丘の近くに火葬後の遺灰を散骨できる場所もありまして、「散骨もいいかな?」なんて思ってしまいました。日本のお墓とはだいぶ違いますよね。
森の墓地はストックホルムに来られた方にぜひとも行っていただきたい場所なので、訪れたい場所と仰っていただけて本望です😊